マムシグサの仲間は分類が曖昧で似たものが多く、変異も多い種類なので正確には判別が難しいです。専門家でも分類が難しい程で、素人にはザックリと総称でまとめたいと思ってしまう植物です。ここでは見た目の特徴が似ているものの種名を当てました。観察していると何だかわからない配色の仏炎苞をしている個体もあり、見なかったことにしているものもあります。変異は個性的で面白いのですが、種名を当てるとなると、とんでもなく厄介なことになります。テンナンショウの仲間は調べたことがある方では良くお分かりだと思いますが、調べるほどに訳がわからなくなっていきます。ただ、見ているとこの最初は不気味な印象を受ける不思議な形状の植物に、なぜか愛着が湧いてくるようになります。春、花が咲く時期になると、個性的で面白いテンナンショウ属を探すのが面白くなってきます。ただ、何年か前にもあったものがなくなっていたりと、少しずつ数を減らしてきています。気持ち悪い植物と嫌う人と、個性的で面白いという人がいる変わった植物です。この両極的な感覚を与えるテンナンショウ属は興味深い種類だと思います。マムシグサの仲間(テンナンショウ属)は個体差が大きく、実際には見た目で種名を当てて良いのか、大いに迷ってしまいます。ザックリとマムシグサに似た数種類をまとめてマムシグサとする案も出ているようです。専門家ですら意見が割れている種類になるので、間違っていても不思議でもなく、さらには間違っているのかどうかさえ、遺伝子を調べて分類しなければならないような話になってしまいそうで、素人が紹介する植物ではない気がしますが、よく見かける植物なので独断と偏見で名前を当てて紹介することにしました。まずはオオマムシグサとミミガタテンナンショウを調べてみることにしました。
オオマムシグサは「オオ」と付いているだけに、大型のマムシグサと言う名前の由来があるようです。ただ、大きさには個体差があるので、ただ草丈が大きいと(高い)というだけでは判別できません。個体差がある植物だけに、何点か特徴を見つけることが必要になってきます。オオマムシグサに似ている種類にミミガタナンテンショウとムラサキマムシグサがあります。ここで最低限、この3種の違いを調べる必要が出てきます。ミミガタナンテンショウは珍しい種類になるので、オオマムシグサの方が見つける機会は多くなります。よく似た種類を比較して見ました。
☆似ている3種、オオマムシグサ、ミミガタナンテンショウ、ムラサキマムシグサの特徴の比較。
・オオマムシグサ オオマムシグサの花期は5〜7月。仏炎苞は暗紫色、稀に緑色もある様です。緑色の仏炎苞の場合、カントウマムシグサ(仏炎苞が緑色)と判別しないといけません。カントウマムシグサの紫色の仏炎苞をしたものがムラサキマムシグサと呼ばれます。仏炎苞の先は長く垂れ下がる(ムラサキマムシグサに似ますが、ムラサキマムシグサよりも苞の先が垂れ下がる部分が長くなります)。オオマムシグサの付属体の径は10〜12ミリで付属体は棍棒状で乳白色。
仏炎苞筒部は淡緑色〜白色。舷部(げんぶ)は褐色で白い縦筋が目立ちます。ドーム状に盛り上がっているそうです。舷部(げんぶ)とは花弁の基部が細長くて、先端部が広がっているような花冠の場合、広がった先端部を舷部と呼びます。基部の細い部分は爪と呼ぶそうです。表現が専門的すぎて良く分からなくなってしまいそうです。オオマムシグサの口辺部はやや広く開出(広がって見えます)しています。小葉は楕円形で大きいです。
・ミミガタナンテンショウ ミミガタナンテンショウの花期は4〜5月。仏炎苞は濃紫色〜暗紫色で苞の先は垂れないことが多いようです。ミミガタテンナンショウの最大の特徴は仏炎苞の口辺部が左右に開いたように開出します。平たくと左右に飛び出した様な感じになるようです。典型的なミミガタテンナンショウは仏炎苞の先は垂れ下がりません。ただし個体差がある種類なので、垂れ下がっている個体もあると思います。付属体の先端部は棒状〜棍棒状で丸みを帯びて付属体の径は3〜10ミリとされています。小葉は幅が広い卵形〜楕円形。ただし変異もあります。
・ムラサキマムシグサ ムラサキマムシグサの花期は5〜6月。仏炎苞は暗紫褐色を帯びていて縁はやや広く反り帰っていて、白い縦筋が目立ちます。付属体は暗紫褐色で形は先が頭状に膨らんでいます。付属体の径は6〜7ミリ。舷部は筒部に覆いかぶさるようになったドーム状で、長さは7〜12センチと長めです。緑色の仏炎苞をした種類がカントウマムシグサと呼ばれます。しかし、ムラサキマムシグサとカントウマムシグサの中間的な個体も見られます。
注意点として個体差があることから、これら上記の特徴は当てはまらないこともあります。比較を文章で読んでも良く分からいと思いますが、参考にしてみてください。
ミミガタテンナンショウとオオマムシグサを調べてみました。
ミミガタテンナンショウはマムシグサの仲間のヒガンマムシグサの変種で、ヒガンマムシグサやムラサキマムシグサに似ています。ヒガンマムシグサは葉の中肋に沿って、はしばしば白い白斑が入る場合が多いようです。また仏炎苞の色には変異が多く、紫褐色、黄褐色、淡緑褐色、緑色の強い個体などがあり白い縦筋が入ります。ムラサキマムシグサとは仏炎苞の口辺部の張り出し等に違いがでます。テンナンショウの仲間は変異も多いので、判別は難しい植物になります。
ミミガタテンナンショウは珍しい種類の植物になっていて、日本のレッドデーターによると、絶滅危惧T類は千葉県、兵庫県、高知県。絶滅危惧U類は静岡県、長野県。準絶滅危惧種は岩手県、福島県、愛媛県になっています。当方観察地の神奈川県では、ムラサキマムシグサ、カントウマムシグサ、ミミガタテンナンショウが混在しています。紛らわしいというよりも、判別には苦労するものの、色々見ることができるので運が良いと思っています。苞の色や形はオオマムシグサも似ています。思わず「何でこんなに似た種類ばっかりなの」と言葉が出てくる植物です。
★ミミガタテンナンショウ サトイモ科テンナンショウ属の多年草。ミミガタテンナンショウはヒガンマムシグサの変種になっている日本固有種です。草丈は30〜80センチと大型で雌雄同株の有毒植物です。栄養状態により雌株と雄株に代わる面白い特徴があります。雄株では仏炎苞の基部に穴が開いていて昆虫が花粉を付けて脱出できるようになっています。雌株では仏炎苞の基部に穴が開いていません。中に入った昆虫は雄花の花粉をつけていた場合、出口を探して動き回ります。その必死の抵抗により確実に受粉させることができるという仕組みです。ミミガタテンナンショウの特徴は仏炎苞の縁(口辺部)が左右に張り出して見えることです。この特徴を持ったテンナンショウの1種なので、判別が難しい似た種類の多い仲間の中では、比較的に分かりやすい種類になると思います。仏炎苞は濃紫色〜暗紫色で縦筋が見えます。仏炎苞の大きさは基本種よりも大きく、花期は4〜5月。筒部の大きさは4・5〜8センチ。付属体の先端部は棒状〜棍棒状で丸みを帯びています。付属体の径は3〜10ミリとされています。分布は本州(岩手県〜静岡県の太平洋側)、四国(西南部)、九州(大分県)。関東地方、山梨県の低山地。神奈川県ではたまに見る種類です。低山地の山林や林縁に生育しています。葉は2枚。小葉は卵形〜楕円形で幅が広い特徴がありますが、変異も多いようです。小葉は鳥足状で7〜13枚あります。珍しい種類になるので離れているとどの種も似たものが多い事から、見逃してしまうということもあると思います。近づいて特徴を確認すると見つかるかも知れません。
・判別する方法として、ミミガタテンナンショウは仏炎苞の口辺部は左右に開いたように開出して見えます。カントウマムシグサやムラサキマムシグサでは口辺部の巻き込まれる部分の面積が大きいものはあるのですが、左右には広がりません。個体差でこの巻き込みの部分が少ない個体と大きい個体はある様なのですが、左右に広がり(平らに)がない場合、ムラサキマムシグサとしました(素人なので間違いがある可能性はあります)。この判断は見た感じと変異が大きい種類によることからの判断になります。オオマムシグサとも似ていますが、やはり口辺部は左右に広がりません。またオオマムシグサの場合は仏炎苞が大きく垂れ下がっています。典型的なミミガタテンナンショウの場合、仏炎苞の先は垂れ下がらないようです。もちろん必ずとは言い切れませんが、垂れ下がらない個体が多いようです。観察しているとミミガタテンナンショウの仏炎苞は展開した葉の上の方にあります。
上、ミミガタテンナンショウ。角度を変えて見て見ました。1番下は葉の様子です。撮影は5月。撮影地。神奈川県横浜市、こども自然公園。
★オオマムシグサ サトイモ科テンナンショウ属の多年草。日本固有種。草丈は30〜80センチ。雌雄同株の有毒植物です。栄養状態により雌株と雄株に代わる面白い特徴があります。雄株では仏炎苞の基部に穴が開いていて昆虫が花粉を付けて脱出できるようになっています。雌株では仏炎苞の基部に穴が開いていません。中に入った昆虫は雄花の花粉をつけていた場合、出口を探して動き回ります。その必死の抵抗により確実に受粉させることができるという仕組みです。葉は2枚。小葉は鳥足状で7〜13枚あります。葉は楕円形で大きいです。分布は本州、四国、九州。山地、森林、林縁など明るい湿った環境を好むようです。茎の模様は紫褐色が多いが、色の濃淡など模様にも変異が多い。仏炎苞の形は仏炎苞は淡紫褐色。大型で白い縦線が入る。口辺部はやや広く開出して広がっています(張り出しはミミガタナンテンショウよりも小さくなります)。オオマムシグサは葉の形状、仏炎苞の形状に変異が大きい種類なので正確な判別は難しいです。仏炎苞の特徴は幅が広く、長く先が垂れ下がる場合が多い事のようです。付属体は棍棒状で 紫褐色の斑があるものや乳白色をしている様です。花期は5〜6月になります。オオマムシグサは日本のレッドデーターによると秋田県、山形県で絶滅危惧T類。愛知県で絶滅危惧U類になっています。オオマムシグサはカントウマムシグサよりも大きいとされていますが、背丈の低いオオマムシグサもあることから、草丈の大きさだけでは判断できません。
上、オオマムシグサ。口辺部は広く開出して広がっています。仏炎苞はムラサキマムシグサよりも大型で花期がムラサキマムシグサよりも遅いです。舷部はドーム状に盛り上がる。近くの場所のムラサキマムシグサの仏炎苞が枯れるころに目立ってきます。オオマムシグサとして紹介しました。1番上は普通の紫色系になるようですが、苞には緑色が入っています。下2枚は苞が緑色をしている緑色型のオオマムシグサだと思っています。ここではオオマムシグサとして紹介させていただきます。撮影は5月。撮影地。神奈川県横浜市、こども自然公園。
上、ムラサキマムシグサです。比較のためにムラサキマムシグサの写真も見てください。上は口辺部を拡大してみた写真です。苞の特徴の1つに舷部が長く垂れ下がることがあります。仏炎苞の縁は巻き込まれます。仏炎苞は暗紫褐色お帯び 付属体は暗紫褐色で先が頭状に膨らんだ棒状です。撮影地。神奈川県横浜市、こども自然公園。ムラサキマムシグサは当方、他記事のブログで紹介しています。似たものや変異が多いのですが、写真は張り出しがオオマムシグサとした写真のものより弱いので、ムラサキマムシグサで良いと思っています(間違っている可能性もあります)とにかく難解な植物です。
写真で3種類のテンナンショウ属を紹介しましたが、変異や個体差が大きい植物で正確な判別は難しいです。どれも同じように見えてきてしまいます。数年前から調べていてやっと紹介するに至りました。間違っていても素人ゆえご容赦願います。1番良いのは図鑑に記載されているものと特徴、容姿ができるだけ1致するものを探すことになりそうです。変異のある植物も面白いのですが、テンナンショウ属の場合は、かなり難解になってしまいます。
以前、カントウマムシグサ、ムラサキマムシグサ、ウラシマソウも記事にしました。注意深く見ないと、これら写真だけを見ると間違い探しになってしまいそうになる植物であることが、いともたやすく見て取れます。見慣れてくると、この奇異な形の個性的な植物が魅力的に思えてくるから不思議です。目を背けないで見かけたら観察することをお勧めします。食べることを考える方はいないと思うのですが、テンナンショウ属の植物は有毒植物なので、決して食べようとは思わないでください。残念なことにテンナンショウ属の植物は年々見る機会が減ってきている感があります。本格的な林や低山地以外ではめっきり数が減っているようです。気持ち悪い植物だと思い、抜き取ったり、けり倒すことは裂けていただきたく思います。テンナンショウ属には日本固有種も多く、しかも絶滅危惧種になっている種も多く、大事にしていきたい植物になってきています。以前観察できた別の公園では、ウラシマソウやマムシグサ(カントウマムシグサ、ムラサキマムシグサ)が絶滅してしまいました。見ることができなくなるのは残念なことです。見た目の悪い(気味の悪い)植物でも、なくなってしまうことは自然界の損失になるので大事に保護していきたいものです。