・アリグモは良く見ないとアリに見える擬態をしたハエトリグモ科のクモです。特に雌のアリグモ類はアリと良く似ているので見間違えている方もいるかもしれません。アリグモは名前の通り、アリに良く似た姿をしたハエトリグモ科のクモです。幼体だと種類等、他のアリグモの仲間と見分けが付けられません。アリグモの仲間はハエトリグモ科のクモなのでピョンと跳びます。アリは跳ばないので、アリだと思っていても驚くとピョンと跳ぶ特徴から、アリではなくアリグモの仲間だとすぐに分かります。アリグモがアリの擬態をするメリットは、アリを餌とする昆虫が少ないことによるようです。肉食昆虫からすると蟻酸を含んでいる種類のアリは美味しくない食材になるようです。他の昆虫に襲われにくいアリに擬態して難を逃れることが目的のようです。
★アリグモ ハエトリグモ科アリグモ属。普通種。体長は雄が5〜6ミリ、雌が7〜9ミリ。雄には立派な上顎があり、雌では腹部が大きくなります。雌のアリグモはアリにそっくりに見えます。アリの種類のクロオオアリに擬態していると言われています。体色には黒、黒褐色、赤茶色、赤褐色など個体差があるようです。雌の腹部背面にある白い帯の形にも個体差があります。同じハエトリグモ科でもアリグモ属に属する様に、ハエトリグモの中にあっては長細く見える姿がハエトリグモらしくないことが特徴です。アリグモはアリに似ていますが、獲物は主に他の小型の昆虫になります。アリを好んで捕食するからアリグモと言うことではないようです。アリと良く似た姿に擬態しているクモと言う方が適切だと思います。このアリグモは見れば見るほどアリに似ています。第1脚を前に突き出していると6本脚に見えてしまいます。8本脚をアリと同じように6本脚に見える工夫もしているのです。アリグモは大型のクロオオアリや腹部の大きな翅のないハアリ(羽蟻)に似ています。この細長い体形のために、ハエトリグモとしてはジャンプすることが苦手になります。飛びかかって襲うよりも、近づいて襲うという方法で狩りをします。体は細長くても、アリグモを正面から見ると他のハエトリグモに似た顔つきをしています。分布は北海道、本州、四国、九州、沖縄。公園、照葉樹などの林縁、庭などの人家付近にいます。アリグモは総称的に使われる呼び名で、アリグモ、ヤサアリグモ、タイリクアリグモ、クワガタアリグモ、ヤガタアリグモなどがいます。巣は繁殖行動の中で作られます。葉に小さな天幕状の簡素な巣を作ります。アリグモは成体、亜成体で越冬します。
アリグモです。上、雄の上顎はアンバランスに見える位に大きく立派です。その大きさは頭胸部と同じ位に見えるので、雌とは上顎の大きさですぐに雌雄を区別することができます。この雄は簡単な網を張った巣の中にいました。下、雌のアリグモです。腹部が大きく上顎は小さいです。
★ヤサアリグモ ハエトリグモ科アリグモ属。普通種。体長は雄が4〜5ミリ、雌が5〜6ミリ。雄には立派な上顎があり、雌の方が腹部が大きくなります。雌のヤサアリグモはアリにそっくりに見えます。アリグモと良く似ていますが、ヤサアリグモの方がスリムな形をしていて光沢があります。最も見比べて見ないと、ヤサアリグモの細い体の感じは伝わらないと思います。体色には変異があり、成体では赤味が出てくるヤサアリグモでも、どちらかなと思うような個体もいます。分布は本州、四国、九州。公園、林縁、庭など人家付近にいます。公園のササの葉で見かけることが多いです。越冬は成体、亜成体で越冬します。ヤアアリグモの腹部は細く、ややくびれていることで良く似ているアリグモと見分けがつきます。ヤサアリグモの幼体の雄は黒色と赤褐色の2色の配色になっていて、胸部と腹部前方が赤褐色に見えます。
上、ヤサアリグモです。上の2枚は雄。雄の上顎は太くて立派です。アンバランスなほど大きくて、とても丈夫で強そうな顎をしています。顎までいれると10ミリ近い大きさになります。この特徴から雄はすぐに分かります。雌のヤサアリグモはアリグモよりも細いので、ヤサアリグモの方がよりアリに良く似て見えます。ヤサアリグモの腹部はくびれて見え、体つきもひと回り小さく見えます。見慣れてくると両種の判別はしやすくなってきます。下は雌のヤサアリグモです。ヤサアリグモの特徴は腹部が細くくびれています。
アリグモの仲間はどれも良く似ています。アリグモと良く似た種類にタイリクアリグモとヤガタアリグモがいます。見分けるポイントの1つは体色で、成体のタイリクアリグモとヤガタアリグモは赤っぽい体色をしています。タイリクアリグモの頭部、触角は赤味を帯びていますが、ヤガタアリグモは黒い色をしています。幼体の場合では色や姿が良く似ていて、外見での判別は難しいようです。雄の大顎はとても立派で迫力があります。もっと大きな体をしていたら飼育して見たくなります。アリグモは徘徊性のクモですが、繁殖活動として巣も作ります。アリグモの巣は植物の葉に作られます。網で囲まれた小さな巣です。
・アリを捕らえるアオオビハエトリはアリに擬態していると言われています。アリグモと1般的なハエトリグモの中間的な姿をしています。
★アオオビハエトリ ハエトリグモ科。普通種。雄は4〜6ミリ。雌は5〜7ミリ程。見た目はアリグモと1般的なハエトリグモの中間のような姿をしています。頭部と腹部にはわずかな金属光沢があり、体には短毛が密生していて、腹部には白と黒の帯状の縞模様があります。黒い地色に青色や緑色を帯びて見える綺麗なハエトリグモです。体色には個体差があります。光によって光沢と色が若干違って見えます。アリグモの様にアリに擬態していると思われますが、アリグモのような完璧な擬態には見えません。第1脚を持ち上げてアリの様に3本の脚に見える姿をしています。持ち上げた第1脚はアリの触角に似せているということです。アオオビハエトリは地上性でアリなどを求めて移動する徘徊性のクモです。雌雄の見分けは、普通のクモと同じく雌の場合は腹部が大きくなります。雌の場合、腹部背面の白い部分が目立ちます。雄は腹部が細く第1脚には飾毛があります。アオオビハエトリは餌として小型の昆虫を捕らえますが、アリを獲物とすることが多いことが知られています。アリには怖い存在で、アリの天敵と言っても良いクモです。アオオビハエトリのアリを狩る方法は慎重で、他のハエトリグモと違い1撃でしとめるということはありません。幾度かに分けて襲い掛かり、弱るのを待ってしとめます。出現は5〜8月。分布は本州、四国、九州。平地に多い種類で、人家付近、庭、公園などに生息しています。時に人家に侵入して家屋内で見ることもあります。人里に多い種類なので、柵や壁などでも良く見かける種類です。越冬は成体で越冬します。樹皮の裏などに作った天幕状の白い巣の中で越冬します。
上、アオオビハエトリです。上は雄、下2枚が雌です。2枚目の雄は脚が欠損しています。下の雌はアリを捕らえて食べています。アオオビハエトリは歩脚にも青や青紫のグラデーションが見えて綺麗です。カメラを向けると逃げ出してしまいます。普段から落ち着きのない活発なクモです。大型種だったらクモの悪いイメージから離れて人気が出たかもしれないと思います。地味な配色をしているにも関わらづ綺麗で魅力的なクモです。青味の強い個体や青緑色の強い個体を見つけると見とれてしまいます。光によっても見える色が違ってくるので、見た目の色が写真で表せないことが多く、撮影が苦手な種類になっています。
・以下はハエトリグモらしく見えるハエトリグモの仲間の紹介です。沢山の種類がいて似たものも多く、名前を見つけるのは難しくなってきます。
★シラヒゲハエトリ ハエトリグモ科。普通種。体長は雄は6〜9ミリ。雌は8〜10ミリ。黒と白い毛に全身が覆われていて、眼の下から腹部にかけて白い条線(白帯)が入っています。全身に白い短毛が多く白っぽく見えるクモです。見た目で名前をシラゲハエトリと言い間違ってしまいそうです。歩脚は太く短く、体格もがっしりとして見えます。雌雄は体色がほぼ同じで良く似ていますが、雌は腹部が大きく両脇には黒い条線が目立って見えます。出現は5〜9月。分布は本州、四国、九州、沖縄。シラヒゲハエトリは人家付近に多く生息していて、人家、神社、公園内の建物などの壁や塀など人工物に良くいます。野外では石垣や樹の樹幹などにいて、日の当たる場所を好むようです。餌は住み家とする壁や塀、樹幹を徘徊して昆虫を捕らえる徘徊性のクモです。シラヒゲハエトリは成長が遅く、雌では3年目に成体になるようです。そのことから越冬は幼体、亜成体、成体で越冬することになります。つまり雌は寿命が3年もある長生きのクモになります。幼体は茶褐色をしていて成体になると白っぽいクモに見えてきます。幼体でも白っぽく見える短毛がはえている個体もいるので、幼体では個体差があるようです。シラヒゲハエトリは人家の外壁に多くいるのですが、家屋内にはあまり入ってくることはないようです。身近にいてもあまり知られていない理由になるようです。
上、シラヒゲハエトリの雌です。成体になると体の白色の短毛が良く目立ってきて、白いクモに見えてきます。保護色になって白っぽい外壁や壁にいると気が付かないかも知れません。雄の腹部は雌よりも小さく、腹部の両脇には黒い帯がありません。下は雌の亜成体のようです。体もひと回り小さく、まだ白い毛もあまり目立っていません。
★マミジロハエトリ ハエトリグモ科。体長は雄が6〜7ミリ。雌は7〜8ミリの小型になります。出現が5〜10月。分布は北海道、本州、四国、九州。低地に多く、公園や草原などの背丈の低い草や樹の葉の上にいます。雄の頭胸部は黒く、頭部前縁には白いライン(白帯)が見えます。この特徴からマミジロハエトリの名前が付いた様です。このネーミングは眉白(マユジロ)がマミジロになったと推測できます。丁度、目の上に白いラインがあって眉が白く見える面白い顔をしたハエトリグモです。触手は先端が丸くて色は白く見えます。腹部背面は灰色〜黄土色に見えます。雌は頭胸部後縁に白っぽい毛(灰白色の毛)が環状に見えます。この毛は白っぽく見えないものがいて目立たない個体もいます。腹部背面は灰白色に見え、細い黒い線が入っているように見えます。徘徊性のクモで、小型の昆虫を餌にします。色彩に個体変異が多い種類なので、雌だとネコハエトリの雌などと似た個体もいます。雌には腹部後端に1対の黒斑がある。マミジロハエトリの幼体は雄も雌と同じ柄になるので、良く似たネコハエトリと区別が難しくなります。決め手は腹部後端にある1対の黒斑になります。ネコハエトリも色彩や斑紋に個体変異が多く、マミジロハエトリの腹部後端の黒斑も薄い個体もいるので、良く見比べないと分からないことがあります。雌の場合は頭胸部後端の冠状の毛帯と合わせて確認することが必要です。
上、マミジロハエトリの成体の雄は個性的で分かりやすいです。均整の取れたかっこよい姿をしています。マミジロハエトリの雄は成体になると間違いにくいクモになります。
★メスジロハエトリ ハエトリグモ科。体長は雄7〜9ミリ。雌8〜10ミリ。雄と雌で違う色をしたハエトリグモです。出現は4〜11月。分布は本州、四国、九州。頭部中央と顔面付近には白い毛が生えています。雄の胸背部は黒い色をしていて、腹背は黒く太い縦条に見えます。その両脇は黄色く見えます。 雌と幼体は白地にゴマダラ模様の可愛いハエトリグモです。雌の成体は白くて美しい色をしています。この特徴がメスジロハエトリの名前の由来になっているようです。成体になるまでは雄と雌は同じ体色をしているので、雌雄の判別は難しいです。白い色の雌と幼体は可愛くて美しく見えます。雌と幼体の場合、他種との判別は容易になります。中木の枝や葉、低木の枝や葉やなど低い場所を徘徊する徘徊性のクモです。餌は他の昆虫を捕らえます。越冬は幼体で越冬します。生息している木などを見つけないと、中々見つけられないので、個体数は少ない方の種類になるのかと思います。
メスジロハエトリの雌です。雌は全体的に白く見える何とも言えない綺麗な白色をしています。白い地色に小さな褐色の斑紋があり、斑模様になっています。個体数が多くない種類なのか、当方が見つけることが下手なのか、なかなか見つけることができないでいます。
★チャスジハエトリ ハエトリグモ科。体長は雄は7〜11ミリ。雌は10〜12ミリ。ハエトリグモとしては大型になります。出現は5〜8月。分布は、本州、四国、九州、沖縄。関東地方以南に多い種類になります。人家や人家付近、公園のトイレなどに住んでいることが多いようです。西日本では家の中に侵入して来ることで有名なハエトリグモになっているようです。クモが嫌いな人には不快害虫の何物でもありませんが、家の中にいて小型のハエやダニ、ゴキブリの幼体、カ、チョウバエなどを捕らえてくれる利点もあります。チャスジハエトリの雄では頭胸部と腹部に1対の太い帯状の黒い縦条が明瞭に見えることが特徴的で、中央には白い縦筋が入っていて良く目立ちます。とても存在感のあるアエトリグモです。雌は地味な色合いで、雄の様に白い部分は目立ちません。全体的には淡い褐色に見えます。徘徊性のクモで小型の昆虫を捕らえます。越冬は主に幼体、亜成体で越冬するようです。似た種類にはミスジハエトリがいます。ミスジハエトリは小型になります。またミスジハエトリの雄では頭部(目の上)に赤橙色に見える部分があります。雌のミスジハエトリはチャスジハエトリの雌よりも色が薄く明るく見えます。
チャスジハエトリの雄です。自然公園のトイレの壁にいました。当方に関してはあまり見ることが無い種類になっていて、家の中では見たこともありません。
★ヨダンハエトリ ハエトリグモ科。普通種。体長は雄が7〜9ミリ。雌8〜10ミリ。出現は5〜7月。分布は北海道、本州、四国、九州。雑木林、林縁の草や落ち葉の上にいます。林のある公園などにも居ます。胸部は黒い色で、腹部には4本の赤橙色の横帯が目立つ、派手な配色のハエトリグモです。名前の由来は腹部に赤橙色の横帯が4本(4段)見えることからついたようです。雄の触肢には白い色の帯が見えますが、雄の触肢の白い帯(白帯)には、白帯のある地域とない地域のヨダンハエトリがいるそうなので、地域変異と思われます。神奈川県にいるヨダンハエトリには白い帯があります。徘徊性のクモで他の昆虫を捕らえます。越冬は亜成体で行います。雄と雌の違いは、雄の方が派手な配色をしていて、雄のヨダンハエトリの触肢には白い帯があり、頭部先端には鮮やかな赤橙色の帯(眉毛の様に見える帯)が見えます。雄の腹部は細くなっています。雌のヨダンハエトリの触肢には白い毛(白帯)が無く、腹部が太く赤橙色の4本の帯が太い帯に見える方が雌になります。雌の頭部には赤橙色の帯はありません。
ヨダンハエトリです。とても美しい柄をしています。接写のためカメラを近づけると、ちょこまかと逃げ出します。もっと接近して撮影したくなる美しい配色をしたハエトリグモです。当方に関しては、なかなか見つけらない種類になっています。
★デーニッツハエトリグモ ハエトリグモ科。普通種。日本に来たドイツ人医師が命名したハエトリグモです。どおりで覚えにくい名前になっている分けです。体長は雄6〜7ミリ。雌8〜9ミリ。出現は3〜11月。分布は北海道、本州、四国、九州。低地〜山地の林縁、公園の植え込みなどの草の上や低木の葉の上にいます。徘徊性で他の昆虫を捕らえ餌にします。頭胸部背面に黒斑があるハエトリグモで。雌の腹部には茶褐色や赤褐色の1対の切れ込み模様の縦条紋があります。腹部の大きなハエトリグモです。雄の腹部の斑紋は不明瞭な個体も多く、地味な茶褐色をして見えます。斑紋の形や色彩に若干の個体差があります。越冬は幼体、成体で越冬します。雄のデーニッツハエトリグモによく似た種類には、雄のウススジハエトリがいます。ネコハエトリにも似て見えますがサイズはデーニッツハエトリグモの方が大きく見えます。
上、雌のデーニッツハエトリグモ 。ツツジの葉の上でムシヒキアブを捕獲しました。普通は小型の昆虫を捕らえるのですが、自分よりも大きな昆虫を良く捕らえたものです。ただ驚くばかりです。
ハエトリグモはクモの仲間の中では1番愛嬌がある種類だと思います。個人的にハエトリグモの仲間は見ていて飽きないので好きです。苦手意識にとらわれないで観察すると面白いと思います。